国際物流会社について、世界ではどのようなランキングなのか?

世界の主要国際フォワーダー比較分析レポート

目次

エグゼクティブサマリー

世界の国際フォワーディング市場は、激しい競争、急速なデジタル化、そしてサステナビリティへの強い推進力によって特徴づけられています。主要なプレーヤーは、広範なグローバルネットワーク、多様なサービスポートフォリオ、そしてテクノロジーとM&Aへの戦略的投資によって差別化を図っています。特に、DSVによるDB Schenkerの買収は、市場の勢力図を大きく塗り替え、業界の統合と規模の拡大の傾向を明確に示しています。

欧州および米国を拠点とするフォワーダーは、大規模なM&Aと先進的なデジタル化・自動化イニシアチブを通じて積極的に成長を追求しています。これに対し、日本のフォワーダーは、強固な国内基盤と、品質および特定の業界専門知識に焦点を当てた戦略的な国際展開を特徴としています。サステナビリティは、もはや単なる企業の社会的責任ではなく、中核的な事業戦略および競争上の差別化要因として位置づけられています。

序論:世界の貨物輸送市場の動向

国際物流業界は、世界の貿易を支える基盤として、数兆ドル規模の巨大な市場を形成しています。この中で、国際フォワーダーは、複雑なグローバルサプライチェーンを管理し、様々な輸送モードを介した貨物の移動を調整し、付加価値サービスを提供する上で極めて重要な役割を担っています。

フォワーダーは、荷主と運送業者を結びつけ、通関手続きを管理し、物流フローを最適化するオーケストレーターとして機能します。彼らの専門知識は、効率的で信頼性が高く、規制に準拠した国際貿易を目指す企業にとって不可欠です。市場は、経済の変動、地政学的な変化、技術の進歩、環境規制の強化といった多岐にわたる要因によって常に進化しており、フォワーダーはこれらの変化に適応し、新たな価値を創造することが求められています。

企業概要と主要な能力

DHL Global Forwarding

  • 企業概要: DHL Global Forwardingは、世界をリードする物流企業であるDHLグループの一事業部門です。DHLグループはドイツのボンに本社を置き、1969年に設立されました。DHLグループ全体で39万人以上の従業員を擁し、世界220以上の国・地域でサービスを提供しています 1
  • 主なサービス: 法人顧客向けに、国際および国内の貨物輸送を提供し、航空貨物、海上貨物、陸上輸送、通関、および多様なロジスティクスサービスを包括的に提供しています 1。特に、自動車・モビリティ、エネルギー、エンジニアリング・製造、ライフサイエンス・ヘルスケア、生鮮品、公共部門、小売、テクノロジー、ワイン・スピリッツといった多岐にわたる業界に特化したソリューションを提供しています 2
  • グローバルネットワーク: 世界220以上の国・地域で事業を展開しており、広範なグローバルネットワークを有しています 1。公共部門のロジスティクス向けには150カ国以上(810拠点)にオフィスを展開しています 3
  • 自社保有のファシリティ: DHL Supply Chainは、世界中で約1,600の倉庫拠点と約1,700万平方メートルの保管スペースを運営しています 4。ドイツのフランクフルトでは、24,500平方メートルの新しいホールスペースと3,000平方メートルのオフィススペースを持つ航空貨物センターが建設されています 5。医療機器向けの倉庫は、ISO 13485およびGxP基準に準拠し、厳格な温度管理(2-8°C、15-25°C)とクリーンルームを備えています 6。また、再生可能エネルギー、ビルオートメーション、持続可能な暖房を活用したカーボンニュートラルな倉庫も設計しています 7

DB Schenker

  • 企業概要: DB Schenkerは、ドイツのエッセンに本社を置く世界有数のグローバルロジスティクスプロバイダーです 8。全世界で72,700人以上の従業員を擁し 9、一部資料では100,000人以上とも記載されています 10
  • 主なサービス: 陸上輸送(トラック、鉄道、複合輸送)、航空貨物、海上貨物、コントラクトロジスティクス、4PLサービスを含む包括的なロジスティクスおよび国際貿易輸送を提供しています 11。自動車、テクノロジー、消費財、見本市ロジスティクス、航空宇宙、バッテリー、eコマース、ヘルスケア、産業、石油・ガス、半導体など、多岐にわたる産業に特化したソリューションを提供し、ネットワーク設計やサプライチェーンコンサルティングサービスも行っています 9
  • グローバルネットワーク: 世界130カ国に展開し 10、700カ所の航空貨物ネットワークを有しています 11。また、世界中の港に毎日5,500本の海上コンテナを輸送しています 11。主要な経済圏に約2,000の拠点を構えています 10
  • 自社保有のファシリティ: 60カ国に850以上の拠点を持ち、総面積は8,750,000平方メートル以上の倉庫スペースを運営しています 12。エコ倉庫プログラムを通じて、再生可能エネルギーや環境に優しい技術の導入を推進しており、シンガポールではアジア太平洋地域で最大かつ最も持続可能な倉庫の一つ「Red Lion 2」を建設中です 16

日通 (Nippon Express)

  • 企業概要: 日本通運は、NXグループの中核企業であり、日本の東京に本社を置いています 17。1937年に設立されました 17。単体従業員数は34,299人(2024年1月時点) 17、連結従業員数は72,366人(2021年3月時点)です 18
  • 主なサービス: 航空、船舶、鉄道、トラック、倉庫、ITを駆使し、高品質でサステナブルなロジスティクスをグローバルに提供しています 17。国内輸送、国際輸送(航空、海上、鉄道、複合)、ロジスティクスソリューション(3PL、EC物流、グリーンロジスティクス、コンサルティング)、専門輸送(引越し、美術品、セキュリティ)など多岐にわたるサービスを提供しています 17。医療ロジスティクスや美術品輸送といった専門分野にも強みを持っています 17
  • グローバルネットワーク: 海外47カ国、314都市、733拠点に展開しており(2021年4月時点) 18、国内には258の支店があります 18。特に中国では、日系企業として最大級のネットワークを誇ります 20
  • 自社保有のファシリティ: 国内の営業倉庫は約1,100拠点、約340万平方メートル 18。国内の流通施設は約2,300拠点、約700万平方メートル 18。海外の倉庫面積は約360万平方メートルです 18。岩手県北上市には延べ床面積2,458平方メートルの新倉庫が完成しています 21。倉庫内では、自動フォークリフト(AGF)や自動垂直昇降機(オートレーター)を連携させ、夜間の出荷準備作業の自動化や入出庫作業の効率化を実現しています 22

Kuehne+Nagel

  • 企業概要: Kuehne+Nagelは、スイスのシンデレギに本社を置く世界有数の物流企業グループです 23。1890年に設立され 24、79,000人以上 23、一部資料では81,000人以上の従業員を擁しています 24
  • 主なサービス: 海上貨物輸送、航空貨物輸送、コントラクトロジスティクス、陸上輸送の分野で確固たる地位を確立しており、IT技術を基盤としたインテグレーテッドロジスティクスに強みを持っています 23。プロジェクトロジスティクス、通関サービス、保険、eコマースソリューション、4PL、サプライチェーンコンサルティングも提供しています 23。航空宇宙、自動車・新モビリティ、小売・eコマース、ヘルスケア、ハイテク、産業、生鮮品など、幅広い業界に対応しています 23
  • グローバルネットワーク: 世界100カ国以上、1,300を超える拠点に展開しています 23。海上・航空貨物輸送において世界No.1のフォワーダーとされています 24
  • 自社保有のファシリティ: 世界100カ国以上で1,200のオフィスと配送センターを運営しています 26。米国各地のオフィスでは、コントラクトロジスティクスサービスを提供しており、これには倉庫機能が含まれます 26

DSV

  • 企業概要: DSV A/Sは、デンマークのヘーゼフーセネに本社を置く、世界有数の規模を持つ物流会社です 27。DB Schenkerの買収完了後、従業員数は約160,000人となり、90カ国以上で事業を展開しています 28
  • 主なサービス: 陸上、海上、航空のロジスティクスサービスを提供しています 27。コントラクトロジスティクス、リードロジスティクス、脱炭素化ロジスティクスソリューションも提供しています 29。航空宇宙、エネルギー、自動車、ヘルスケア、消費財、産業、化学品、生鮮品、展示会・イベント、テクノロジーなど、幅広い産業に特化したソリューションを提供しています 29
  • グローバルネットワーク: DB Schenkerの買収により、90カ国以上で事業を展開する世界有数のプレーヤーとなりました 28
  • 自社保有のファシリティ: 世界中で500以上の倉庫を運営し、総容量は750万平方メートル以上です 32。これらの倉庫は継続的に増設されており 33、自動車、産業、ハイテク、消費財、ヘルスケアなど、特定の業界向けの施設も提供しています 34。例えば、可燃性の高いココアを保管するための特殊な低酸素倉庫も建設しています 34

Expeditors

  • 企業概要: Expeditorsは、米国ワシントン州ベルビューに本社を置く企業です 35。1979年に設立されました 35。世界中で18,000人以上の従業員を擁しています 35
  • 主なサービス: 航空機、船舶、トラックなどの輸送手段を自社で保有しない「アセットライト」モデルを採用しており、柔軟なサプライチェーン管理と最適な経路・価格オプションの提供を強みとしています 36。主要サービスには、サプライチェーンソリューション、輸送(航空、海上、陸上、複合、プロジェクト・エネルギー)、通関・コンプライアンス、倉庫・配送が含まれます 35。アップストリームフルフィルメント、ベンダー管理在庫(VMI)、クロスドック・トランスロードといった専門プログラムも提供しています 37。航空宇宙、小売、ファッション、テクノロジー、石油・エネルギー、製造、ヘルスケア、自動車といった業界に専門知識を持っています 36
  • グローバルネットワーク: 101カ国に346拠点を展開しています 35。世界6大陸109カ国に331の拠点を有するグローバルネットワークを通じて、統一されたテクノロジーシステムを統合しています 39
  • 自社保有のファシリティ: グローバルネットワーク全体でマルチクライアント施設を通じて包括的なサービスを提供し、クラス最高の在庫管理とオーダーフルフィルメントを実現しています 40。ワシントン州サムナーには425,000平方フィートの施設があります 41。航空認証倉庫・配送(AS9120)も提供しています 38

Sinotrans

  • 企業概要: Sinotransは、中国に本社を置く上場企業であり 42、中国最大の物流企業の一つです 42。日本法人はシノトランスジャパン株式会社で、東京に本社を置き、1997年に設立されました 44。日本法人の従業員は39人です 44
  • 主なサービス: 陸路、鉄道、航空、海路を通じて世界中の貨物輸送をコーディネートしています 42。海運代理店業、外航船舶運航事業、航空運送代理店業、不動産管理業、国際フレイトフォワーダー、NVOCC(非船舶運航業者)などの事業内容があります 44。プロジェクト・エネルギー、化学品、自動車、通信・ハイテク、消費財・小売、見本市・イベント、コールドチェーンロジスティクスといった業界に専門知識を持っています 45。海上輸送だけでも1億トン以上を扱っています 42
  • グローバルネットワーク: 世界40カ国に77の支店を展開しています 46。東南アジア地域では11カ国に20以上の拠点を有しています 46。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米に広範な海外ネットワークを持っています 47。中国国内では4つのセンターから鉄道貨物接続を運営し、「一帯一路」構想を推進しています 43
  • 自社保有のファシリティ: 倉庫およびターミナルサービスを提供しており 43、最新技術、フォークリフト、電動スタッカー、システマティックなラッキングシステム、油圧ドッキングシステムを備えた倉庫を保有しています 48。専用倉庫と共有倉庫の両方を提供しています 48。中国で初の「ゼロカーボン」物流パークを建設し 49、アラブ首長国連邦では初の5G自動倉庫を建設しました 49。タイには新倉庫、ドバイ・サウス・フリーゾーンには物流センターの建設を開始しています 49

CEVA Logistics

  • 企業概要: CEVA Logisticsは、フランスのマルセイユに本社を置くグローバル企業です 50。CMA CGMグループの一員であり 51、1986年に設立されました 50。世界中で110,000人以上の従業員を擁しています 51
  • 主なサービス: 輸送およびロジスティクス分野で最先端のエンドツーエンドサプライチェーンソリューションを提供しています 50。航空貨物、海上貨物、陸上・鉄道貨物、コントラクトロジスティクス、プロジェクトロジスティクス、リードロジスティクス、完成車ロジスティクス、通関、税務代理など幅広いサービスを提供しています 51。重量品輸送、迅速な航空貨物輸送、FCL/LCLサービス、保税倉庫内外での短期・長期保管、クロスドック、梱包、組み立て、付加価値サービス、リバースロジスティクスなども提供しています 50。テクノロジー分野(半導体、家電など)や産業・航空宇宙分野(建設機械)に専門知識を持っています 53
  • グローバルネットワーク: 世界170カ国以上で1,000以上のサイト 50、1,500以上の施設を展開しています 51
  • 自社保有のファシリティ: 約1,000の倉庫で1,200万平方メートルの保管スペースを管理しています 52。産業・航空宇宙向けには750拠点で900万平方メートルの保管スペースを運営しています 56。80以上のフルフィルメントセンターを運営し、年間2億2,000万件以上の注文を処理しています 57。これらの施設は、専用、マルチユーザー、キャンパス型運営、保税・非保税エリア、常温・温度管理エリア、高価品・危険物(Hazmat)の取り扱いなど、多様なニーズに対応しています 57

郵船ロジスティクス (Yusen Logistics)

  • 企業概要: 郵船ロジスティクスは、日本の東京に本社を置くサプライチェーン・ロジスティクス企業です 58。連結従業員数は25,004人(2025年3月時点) 58
  • 主なサービス: 陸・海・空の輸送、倉庫サービス、サプライチェーンマネジメントなど多岐にわたる物流サービスを提案しています 58。輸送に付随する商品保管、検品、仕分け、ラベリングなどの物流加工やITシステムによる在庫管理、陸上輸送による配送など、企業物流全体を最適化する包括的なサービスを提供しています 58。食品、アパレル、電子・機械類などあらゆるモノの国際輸送を手配し、海外から海外への輸送比率も拡大しています 58。エンドツーエンド輸送サービス、コントラクトロジスティクス、サプライチェーンソリューション、グリーンソリューションも提供しています 59
  • グローバルネットワーク: 世界46カ国・地域、437都市で748の拠点ネットワークを展開しています(2025年3月時点) 59。海外営業収益比率は約83%と高く、グローバル展開が非常に進んでいます 58
  • 自社保有のファシリティ: 世界各地の倉庫拠点の総面積は200万平方メートル以上にのぼります 60。2024年3月時点の倉庫面積の内訳は、米州が115.2万平方メートル、欧州が77.7万平方メートル、東アジアが29.3万平方メートル、南アジア・オセアニアが106.2万平方メートル、日本が10.9万平方メートルで、合計339.5万平方メートルです 61。主要な港やハブ空港近くに戦略的に配置され、保税機能、厳格な温度管理設備、クリーンルームなどを有しています 60。VMI(ベンダー管理在庫)やコンソリデーションセンターも提供しています 60

近鉄エクスプレス (Kintetsu Express)

  • 企業概要: 株式会社近鉄エクスプレス(KWE)は、日本の東京に本社を置く大手国際総合物流企業です 20。1970年に独立会社となりましたが、そのルーツは1948年の近畿日本鉄道の国際貨物部門にあります 20。連結従業員数は18,651人(2024年3月時点)です 20
  • 主なサービス: 国際航空貨物輸送、国際海上貨物輸送、ロジスティクスなど、ワンストップで提供しています 20。特に、電子部品や精密機器、医薬品などの繊細な貨物や緊急を要するニーズに対応する国際航空貨物輸送に強みを持っています 63。大型機械から日用品まで幅広い貨物を扱い、大型設備輸送では現地到着後の搬入・据付けを含む一貫輸送など、きめ細やかなサービスを提供しています 64
  • グローバルネットワーク: 海外45カ国、298都市、662拠点を有しています 20。中国では日系企業として最大級のネットワークを構築しています 20。世界6つの地域セグメントでグループ会社を管理・監督しています 20
  • 自社保有のファシリティ: 国内には成田、原木、三郷、中部国際空港、りんくうに主要ターミナルがあります 20。シンガポールには、KWEグループで最大級となる65,800平方メートルの新倉庫が稼働しています 65。インドには7つの倉庫があり、合計倉庫面積は約25,000平方メートルです 67。シンガポール新倉庫は、高速道路への接続も良く、24の積載ドックと7,500平方メートルの空調スペースを備え、高価品(電子機器、半導体、医療機器)を主に扱っています 65

比較分析:主要な側面

グローバル展開とネットワークの強み

各フォワーダーのグローバル展開は、その事業規模と市場戦略を明確に示しています。DHL Global Forwardingは220以上の国・地域でサービスを提供し 1、DSVもDB Schenkerの買収により90カ国以上で事業を展開する世界的なプレーヤーとなりました 28。Kuehne+Nagelは100カ国以上、1,300以上の拠点を持ち 23、海上・航空貨物輸送で世界No.1の地位を占めています 24。Expeditorsは101カ国に346拠点を展開するアセットライトモデルの代表格です 35

日本のフォワーダーも広範なグローバルネットワークを構築しています。日本通運は海外47カ国、733拠点を持ち 18、中国で日系企業として最大級のネットワークを誇ります 20。郵船ロジスティクスは46カ国・地域に748拠点を展開し、海外営業収益比率が約83%に達するなど、国際事業が非常に強固です 58。近鉄エクスプレスも海外45カ国に662拠点を持ち、特に中国でのネットワークに強みを持っています 20。Sinotransは中国を拠点としつつ、40カ国に77の支店を展開し、東南アジアでも20以上の拠点を有しています 46。CEVA Logisticsは170カ国以上で1,500以上の施設を運営しています 51

ここで重要なのは、単なる拠点数の多さだけでなく、そのネットワークの「密度」と「戦略的深さ」です。例えば、Kuehne+Nagelが海上・航空貨物で世界No.1であることは、これらの輸送モードにおける深い専門知識と圧倒的な取扱量を意味します 24。日本通運や近鉄エクスプレスが中国でのネットワークの強みを強調するように、特定の地域における深い市場浸透と専門性は、顧客に対してよりテーラーメイドなソリューションを提供し、現地の複雑な状況に対応する能力を高めます。これは、単に存在するだけでなく、その市場でいかに効果的に事業を展開しているかを示す指標となります。

DSVによるDB Schenkerの買収は、このグローバルネットワークの競争環境を根本的に変える出来事でした 27。この買収により、DSVは一気に世界的な主要プレーヤーとしての地位を確立し、その規模を倍増させました 69。これにより、DSVはDB Schenkerの広範なネットワーク(130カ国、2,000拠点、875万平方メートル以上の倉庫スペース)を獲得し、市場シェアの統合と規模の経済を追求しています 10。このような大規模な統合は、他の主要フォワーダーに対しても、競争力を維持するためにさらなる規模の拡大や独自の価値提案の強化を求める圧力を生み出す可能性があります。

サービスポートフォリオと専門性

各フォワーダーは、航空、海上、陸上輸送、通関、ロジスティクスサービスといった中核的なサービスを共通して提供していますが、それぞれが特定の分野や業界に特化することで差別化を図っています。

例えば、DHL Global Forwardingは、自動車・モビリティ、ライフサイエンス・ヘルスケア、エネルギーといった特定の産業分野における深い専門知識を強調しています 2。これは、これらの業界が持つ厳格な規制(例:医薬品のGxP)、特殊な取り扱い要件(例:温度管理、大型貨物)、および複雑なサプライチェーンの課題に対応できる能力を示しています。同様に、DB Schenkerは自動車、ヘルスケア、産業分野に強みを持ち 10、Expeditorsは航空宇宙(AOGサービス、AS9120認証倉庫)やハイテク産業に専門性を持っています 38。CEVA Logisticsは、半導体や家電を含むテクノロジー分野、および建設機械を含む産業・航空宇宙分野での専門知識を前面に出しています 53。このような業界特化は、単なる輸送業者ではなく、顧客のビジネスに深く関与し、その業界固有の課題を解決するパートナーとしての価値を高めます。

また、多くの企業が3PL(Third Party Logistics)や4PL(Lead Logistics)サービスへの移行を進めていることも注目されます。日本通運は3PLやEC物流、グリーンロジスティクスをソリューションとして提供し 17、DB SchenkerやCEVA Logisticsも4PLやリードロジスティクスをサービスラインナップに加えています 11。これは、フォワーダーが単に貨物を運ぶだけでなく、サプライチェーン全体の戦略的設計、最適化、および管理を担う存在へと進化していることを示します。4PLサービスでは、複数の3PLや運送業者を調整し、顧客のサプライチェーンを一元的に管理するため、高度なITシステムと深い運用専門知識が不可欠となります。これにより、フォワーダーは顧客にとって不可欠な戦略的パートナーとなり、より高い付加価値と収益性を実現できると考えられます。この動きは、顧客がサプライチェーンの複雑性を軽減し、効率性とレジリエンスを向上させたいというニーズに応えるものです。

アセット保有型とアセットライト型モデル

国際フォワーディング業界における重要な戦略的選択の一つは、自社で輸送資産(航空機、船舶、トラック)や倉庫を保有するか、あるいは第三者の運送業者や施設ネットワークに依存する「アセットライト」モデルを採用するかです。

Expeditorsは、航空機、船舶、トラックを自社で保有しない「サービスベース」のアセットライト企業であることを明確にしています 36。DSVもまた、アセットライトなビジネスモデルを強みとして挙げています 70。このモデルの利点は、市場の変動に迅速に適応できる柔軟性、資本支出の削減、および特定の運送業者に縛られない最適な経路と価格の選択肢の提供にあります 36。これにより、これらの企業は、資産の維持管理にかかる固定費を抑えつつ、顧客へのソリューション提供とネットワーク管理に集中することができます。

一方で、DHL Global Forwarding、DB Schenker、日本通運、Kuehne+Nagel、Sinotrans、CEVA Logistics、郵船ロジスティクス、近鉄エクスプレスといった企業は、自社で大規模な倉庫施設や一部の輸送資産を保有する、あるいは深く関与する「アセット保有型」または「ハイブリッド型」のモデルを採用しています。例えば、DHL Supply Chainは1,700万平方メートルもの倉庫スペースを運営し 4、DB Schenkerも875万平方メートル以上の倉庫スペースを管理しています 12。日本通運は国内・海外合わせて約700万平方メートル以上の倉庫面積を有しています 18。これらの企業は、自社資産を保有することで、サービス品質、キャパシティの確保、および特定の貨物(例:温度管理が必要な医薬品、大型プロジェクト貨物)に対する直接的な管理と専門的な取り扱いが可能になります 6。また、自社で車両や施設を保有することは、Scope 1および2の排出量削減目標達成に向けた直接的な環境対策(例:電気自動車の導入、カーボンニュートラル倉庫の建設)を推進する上でも有利に働きます 7

この二つのモデルはそれぞれ異なる戦略的含意を持ちます。アセットライトモデルは、市場の不確実性が高い時期には迅速な対応とコスト効率の面で優位に立つことができますが、基盤となる運送業者のサービス品質やキャパシティに依存するという側面もあります。対照的に、アセット保有型モデルは、より高い初期投資と固定費を伴いますが、サービスの一貫性と品質に対するより直接的なコントロールを可能にします。DSVによるDB Schenkerの買収は、アセットライト戦略に強みを持つDSVが、DB Schenkerの持つ広範な陸上輸送ネットワークやコントラクトロジスティクスといったアセットヘビーな能力を獲得する動きであり 31、これは業界が柔軟性とコントロールのバランスを追求するハイブリッドなアプローチへと向かっている可能性を示唆しています。

技術革新とデジタル化

デジタル化とITシステムの進化は、現代の物流業界において単なる効率化ツールではなく、戦略的な差別化要因となっています。各フォワーダーは、サプライチェーンの最適化、可視性の向上、および顧客体験の向上を目指し、技術への大規模な投資を行っています。

  • 可視性と制御の強化: ExpeditorsのEXP.O NOWプラットフォームは、リアルタイムの洞察とツールを提供し、Cargo SignalはIoTセンサーを用いて貨物の位置、温度、状態を追跡し、リアルタイムアラートを提供します 71。DSVもセキュアなITインフラとデジタルソリューションを通じて、リアルタイムのエンドツーエンドの可視性と追跡機能を提供しています 70。Kuehne+Nagelの「seaexplorer」は海上貨物のCO2排出量を表示し、顧客の環境に配慮した選択を支援します 23。郵船ロジスティクスのYusen Vantageも、オンラインでの見積もり、予約、輸送状況の追跡を可能にし、迅速な意思決定をサポートします 59。これらのシステムは、顧客が自身のサプライチェーンに対するより詳細な情報と制御を得ることを可能にし、信頼性と透明性を高めます。
  • 自動化と効率化: ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、DHL Global Forwarding 74、日本通運 22、Kuehne+Nagel 76、近鉄エクスプレス 77などで導入され、時間のかかる反復作業を自動化し、従業員をより付加価値の高い業務に解放しています。DHLは倉庫での自動化とロボット技術(AGV、AMR、ASRS、産業用ロボット、コボット、Dorabot)を積極的に導入し、効率と生産性を向上させています 78。CEVA Logisticsは、EDIサービスをIBM Supply Chain Business Networkに移行することで、応答速度を90%高速化し、新規取引先への展開時間を40%短縮、コストを50%削減しました 79
  • データ駆動型意思決定と予測: DB Schenkerは、データ駆動型企業文化への移行を加速し、アナリティクスおよびAIベースのソリューションを積極的に開発しています 80。Expeditorsは、リアルタイムデータと高度なアナリティクス、機械学習、予測分析を組み合わせることで、「インサイト」を生み出し、リスクの最小化、コスト削減、よりスマートな意思決定を支援しています 71。デジタルツイン技術(Expeditors 71、CEVA Logistics 83)は、サプライチェーンの仮想モデルを構築し、混乱のシミュレーション、戦略のテスト、フローの最適化を可能にすることで、現実世界での変更前に自信を持った意思決定を支援します。これは、単なる過去のデータ分析から、将来の予測と最適な行動提案へと進化する「予測的・処方的ロジスティクス」への移行を示しています。
  • システム統合: EDIやAPIを通じたシステム間のシームレスなデータ統合は、サプライチェーン全体の効率的なコミュニケーションとデータ品質を保証する上で不可欠です 70。CEVA LogisticsのCEVA Matrix®プラットフォームは、航空・海上貨物、倉庫、サプライチェーン、陸上輸送の管理をエンドツーエンドで統合し、リアルタイムの情報とトレーサビリティを提供します 85。SinotransもSMART WMS, SMART TMS, SMART CARGO, SINO BIGDATAなど、包括的なデジタルプラットフォーム群を開発し、データ分析と可視化を強化しています 87。これらの統合は、物理的な貨物の流れと同様に、情報フローがサプライチェーンの効率性とレジリエンスの鍵であることを示しています。

これらの技術投資は、物流業務の効率を劇的に向上させるだけでなく、顧客に対してより高度なサービスと透明性を提供し、市場における競争優位性を確立するための重要な要素となっています。特に、AI、ロボティクス、IoT、デジタルツインといった先端技術の活用は、企業が単に貨物を追跡するだけでなく、混乱を予測し、リアルタイムでルートを最適化し、さらには新しいデータ駆動型サービスを顧客に提供する能力を高めています。

サステナビリティとESGへのコミットメント

サステナビリティは、今日の物流業界において、単なる企業の社会的責任(CSR)活動から、中核的な事業戦略および競争上の重要な差別化要因へと進化しています。主要なフォワーダーは、環境、社会、ガバナンス(ESG)の各側面において、野心的な目標を設定し、具体的な取り組みを進めています。

  • 排出量削減目標とSBTi: 多くの企業が、科学的根拠に基づいた目標設定イニシアティブ(SBTi)にコミットし、ネットゼロ排出目標を掲げています。DHLグループは2050年までのネットゼロ排出を目標とし、2030年までにGHG排出量を大幅に削減する中期目標を設定しています 7。DB Schenkerは2040年までのネットゼロ排出を目標とし、Scope 1、2、3排出量の削減に取り組んでいます 16。DSVも2050年までのネットゼロ排出と、2030年までにScope 1&2で50%、Scope 3で30%の排出量削減(2019年ベース)をSBTiによって検証済みの目標としています 91。Kuehne+Nagelは2030年までに炭素排出量を30%削減する目標を持ち、これもSBTiによって確認されています 92。日本のフォワーダーも同様の動きを見せており、日本通運は2050年までのカーボンニュートラル社会実現への貢献を目指し、2030年の中期目標も設定しています 93。近鉄エクスプレスもSBTi認証を取得し、SAF(持続可能な航空燃料)の活用を推進しています 62
  • 具体的な取り組み:
  • 輸送手段の脱炭素化: 電気自動車(EV)の導入(DHL 7、DB Schenker 16、CEVA Logistics 94、Sinotrans 42)、SAFやHVO(水素化植物油)、バイオ燃料の利用拡大(DHL 88、DB Schenker 16、Kuehne+Nagel 92、CEVA Logistics 94)が主要な戦略です。
  • グリーンファシリティ: カーボンニュートラルな倉庫の設計・運営(DHL 7、DB Schenker 16)、再生可能エネルギーの利用(Kuehne+Nagelの電力の99%が再生可能エネルギー由来 92)、LED照明への切り替え(CEVA Logistics 94)など、物理的なインフラの環境負荷低減も進められています。
  • 循環型経済: DB Schenkerは循環型経済製品を導入し 16、CEVA LogisticsはCEVA FORPLANETプログラムを通じて低炭素輸送と循環型経済ソリューションを提供しています 94
  • 透明性と報告: 多くの企業がCO2排出量計算ツール(DHL Carbon Calculator 7、KWE CO2 Calculator 62、Yusen CO2 e-calculator 59)を提供し、顧客のScope 3排出量削減を支援しています。EcoVadisのような第三者評価機関の活用も進んでおり、CEVA LogisticsはEcoVadisゴールドメダルを獲得しています 94

サステナビリティへのコミットメントは、顧客獲得と維持においてますます重要な要素となっています。例えば、DB SchenkerはHewlett-Packardから「ロジスティクス・サステナビリティ・パートナー・オブ・ザ・イヤー」として表彰されており 16、これは企業のサステナビリティパフォーマンスが顧客のサプライヤー選定基準になっていることを示しています。また、DHLグループがESG目標を役員報酬に組み込んでいるように 7、サステナビリティは経営の中核に組み込まれつつあります。

しかし、Scope 3排出量(サプライチェーン全体における間接排出量、特に外部委託された輸送活動からの排出量)の削減は共通の課題です 42。アセットライトモデルの企業や、外部委託に大きく依存する企業にとって、サプライヤーとの協働や、SAFやバイオ燃料の利用を促す仕組みの構築が重要となります。透明性のある報告と、SBTiのような検証可能な目標設定は、企業の環境主張の信頼性を高め、競争優位性を確立する上で不可欠です。

財務状況と成長軌道

世界の主要なフォワーダーの財務状況は、パンデミック後の市場の変動と、運賃の正常化という二つの主要なトレンドを反映しています。

最近の売上高と営業利益:

  • DHL Global Forwarding: DHLグループ全体の2024年の売上高は842億ユーロ(約941.1億ドル)で、前年比3.0%増でした 1。Global Forwarding, Freight部門の2024年売上高は196.49億ユーロで1.8%増でしたが、EBIT(営業利益)は10.74億ユーロで24.5%減となりました 96。これは、売上高が増加しても、運賃の正常化やコスト圧力により利益率が圧迫される可能性を示唆しています。
  • DB Schenker: 2023年の売上高は191億ユーロ、調整後営業利益は11億ユーロでした 97。これは2022年の記録的な高水準からは減少したものの、パンデミック前の水準を大きく上回る堅調な結果でした 97。DBグループ全体の2023年売上高は452億ユーロで、2022年から約13%減少しました 97
  • Nippon Express: 入手可能な最新の連結財務データは2021年3月期のもので、売上高は2兆791億95百万円、営業利益は781億00百万円でした 18
  • Kuehne+Nagel: 2023年年次報告書が公開されており、詳細な財務諸表が利用可能です 98
  • DSV: 2025年上半期(H1)の売上高は1,036億6,300万デンマーククローネ(DKK)で、前年同期の794億9,700万DKKから大幅に増加しました 28。EBIT(特別項目控除前)も85億8,500万DKKに増加しました 28。この大幅な増加は、2025年4月30日に完了したDB Schenkerの買収による貢献が主要因です 28。両社の2024年通期実績に基づくプロフォーマ売上高は、約3,100億DKKに達するとされています 99
  • Expeditors: 2024年の年間売上高は106.01億ドルで、13.98%の増加でした 100。2025年3月31日までの直近12ヶ月の売上高は110.60億ドルで、前年比24.07%増と堅調な成長を示しています 100
  • Sinotrans: 2023年の売上高は1,017億人民元で、前年比6.94%減少しましたが、株主に帰属する純利益は42.22億人民元で3.50%増加し、過去最高を記録しました 49。これは、運賃の正常化による売上高の減少にもかかわらず、収益性の改善を示しています。
  • CEVA Logistics: 2024年の総売上高は183億ドルでした 52。2023年のプロフォーマ売上高は202億ドルでした 101
  • Yusen Logistics: 2025年3月期の連結売上高は約7,800億円と見込まれています 58。日本郵船グループの物流事業(郵船ロジスティクスが中核)の2024年4月~12月期の売上高は6,144億円で前年同期比18.1%増でしたが、経常利益は207億円で1.4%減でした 102
  • Kintetsu Express: 2025年3月期の売上高は1,464億5,600万円ですが、純利益は-711億1,300万円の損失を計上しています 103

市場の変動とレジリエンス:

近年の財務データは、パンデミック後の市場のボラティリティと、運賃の正常化が企業の収益に与える影響を明確に示しています。例えば、DHL Global ForwardingのEBIT減少は、運賃の正常化がトップラインの成長を上回る利益率への圧力を生み出していることを示唆しています 96。DB Schenkerの売上高は減少したものの、調整後営業利益がパンデミック前の水準を大きく上回ったことは 97、同社が「UNLEASH変革プログラム」などの効率化努力を通じて、コスト管理と運用効率を強化していることを示唆しています。Expeditorsも、運賃の変動と需要の減速に対応するために、迅速な適応とコスト管理に注力していると報告しています 104。

このような状況下で、企業は、運用効率の向上、コスト管理、および戦略的な事業シフトを通じて、収益性を維持する能力が試されています。市場の変動期においても堅調な営業利益を維持できる企業は、強固な財務レジリエンスを持っていると評価できます。

M&Aが財務に与える影響:

DSVによるDB Schenkerの買収は、大規模なM&Aが企業の財務状況に与える即時的かつ劇的な影響を示す好例です。DSVの2025年上半期の売上高と粗利益は、Schenkerの貢献により大幅に増加しました 28。しかし、このような大規模な買収は、統合コストやシナジー実現の課題も伴います。DSVは2028年末までに90億DKKのシナジー効果を期待していますが、総取引・統合コストは110億DKKに達すると予想されており、その大半は2026年と2027年に発生する見込みです 28。また、買収により投下資本利益率(ROIC)が一時的に低下する可能性も示唆されています 28。これは、大規模なM&Aが短期的な売上高の増加をもたらす一方で、長期的な財務的成功は、買収後の効果的な統合とシナジーの実現にかかっていることを示しています。

近年の戦略的動向(M&A、デジタル化、サステナビリティ戦略など)

世界の主要国際フォワーダーは、競争激化と市場環境の変化に対応するため、M&A、デジタル化、サステナビリティ戦略を三本柱として、積極的に戦略的転換を進めています。

M&Aによる市場再編と能力強化:

M&Aは、業界の統合と特定の能力の獲得を加速する主要な手段となっています。

  • DSVによるDB Schenkerの買収: 2025年第2四半期に完了したDSVによるDB Schenkerの143億ユーロでの買収は、業界史上最大の取引の一つであり、これによりDSVは世界有数のプレーヤーとなりました 27。この動きは、DSVがグローバルネットワークと競争力を大幅に強化し、新たな市場と人材へのアクセスを得ることを目的としています 69。これは、単なる規模の拡大だけでなく、より持続可能で柔軟なデジタル化された輸送・ロジスティクス産業の発展に向けたプラットフォームを強化するものです 69
  • DHL Supply Chainの戦略的買収: DHL Supply Chainは、2025年にInmar Supply Chain Solutions(リバースロジスティクス)とIDS Fulfillment(eコマースフルフィルメント)を北米で買収しました 105。これは、急成長するeコマース市場と、複雑な返品管理という課題に対応するための戦略的な動きであり、特定の高成長セグメントでの能力を強化するものです。
  • CEVA Logisticsの積極的な買収: CEVA Logisticsは、2023年にインドのStellar Value Chain 108、2022年にIngram Micro CLS部門 109、さらにGEFCOやBolloré Logisticsを買収し、コントラクトロジスティクス、eコマースソリューション、完成車ロジスティクス、航空・海上貨物輸送における能力と地理的範囲を拡大しています 101。これらの買収は、CEVAがグローバルなトップ5ロジスティクスオペレーターになるという目標の一環です 108
  • Kuehne+Nagelの多角的な買収: Kuehne+Nagelは、Apex(航空貨物) 110、Farrow(通関業者) 110、Morgan Cargo(生鮮品貨物輸送) 110、Rotra(陸上輸送) 110、Jöbstl Group(陸上輸送) 110、Wira Logistics(インドネシア) 110、Quick International Courier(時間厳守貨物) 110など、特定の専門分野や地域ネットワークを強化するための多角的な買収を行っています。また、Temasekとの合弁事業を通じて、ロジスティクステクノロジーのスタートアップへの投資も行っています 110
  • 日本のフォワーダーの動き: 郵船ロジスティクスは2025年7月に欧州のヘルスケアロジスティクス企業Movianto Internationalを買収し、安定成長が見込まれるヘルスケアロジスティクス分野での基盤強化を図っています 112。近鉄エクスプレスは2015年にAPL Logisticsを買収し、米国自動車メーカーや大手小売業者といった顧客基盤を拡大しました 20。Sinotransは2024年5月に韓国のLX Pantosとマルチモーダル輸送の合弁事業を立ち上げました 113

これらのM&Aの動きは、単に市場シェアを拡大するだけでなく、eコマース、リバースロジスティクス、ヘルスケアロジスティクス、特定の地域市場といった高成長・高付加価値分野における専門知識と能力を迅速に獲得するための戦略的な手段として機能しています。

デジタル化による業務変革と競争力強化:

デジタル化は、効率性向上、顧客体験の改善、および新たなサービスモデルの創出を可能にする、すべてのフォワーダーにとって不可欠な戦略です。

  • AI、ロボティクス、IoTの活用: DHLは倉庫業務におけるロボティクスと自動化(AGV、AMR、ASRS、コボット)を推進し、RPAやAIを活用して事務作業の効率化を図っています 74。DB SchenkerはAI、IoTソリューション、モバイルアプリケーション、デジタルプラットフォームの開発を通じて、データ駆動型企業への移行を加速しています 80。Kuehne+NagelはAI、ロボティクス、デジタルツイン技術を活用し、データ統合(EDI、API)を通じてサプライチェーンの効率とレジリエンスを高めています 76。ExpeditorsもEXP.O NOWプラットフォーム、Cargo Signal(IoTセンサー)、デジタルツイン技術により、リアルタイムの可視性、予測分析、データ駆動型意思決定を顧客に提供しています 71
  • 自社システムとDX推進: CEVA LogisticsのCEVA Matrix®は、倉庫管理(WMS)、輸送管理(TMS)、サプライチェーン管理(SCM)を統合するグローバルプラットフォームであり、APIやEDIを通じて顧客システムとの連携も可能です 85。日本通運はRPAの導入と「RPAマスター」の育成により、事務作業の自動化と労働時間削減に成功し、ペーパーレス化やデータ連携といったDX戦略も推進しています 22。また、プライベートクラウドの構築によりITインフラの標準化と全体最適化を図っています 116。郵船ロジスティクスは、独自のITシステムで出荷や在庫計画の可視化をサポートし 60、AIを活用した航空輸出におけるケースマーク照合システムの開発も進めています 117。近鉄エクスプレスもDX化を推進し、営業DXの促進やAI-OCRの導入を通じて業務効率化を図っています 63

デジタル化は、単に業務を効率化するだけでなく、サプライチェーンのレジリエンスを高め、顧客に対するサービスレベルを向上させるための基盤となっています。特に、AIやデジタルツインのような技術は、予測的な意思決定を可能にし、サプライチェーンの混乱を未然に防ぐ能力を高めています。

サステナビリティ戦略の深化と競争優位性:

サステナビリティは、規制遵守だけでなく、顧客の要求に応え、企業のブランド価値を高めるための戦略的柱となっています。

  • GHG排出量削減目標: 多くの企業が、SBTiに準拠したネットゼロ目標(DHL 2050年 89、DB Schenker 2040年 90、DSV 2050年 91、Kuehne+Nagel 2030年 92、日本通運 2050年 93、CEVA Logistics 2050年 94)を設定しています。Sinotransは2060年までのネットゼロ目標を掲げていますが、Scope 3排出量の明確な包含については課題が残ります 42
  • 具体的な環境対策: SAFやバイオ燃料の利用拡大、電気自動車や水素トラックの導入、カーボンニュートラル倉庫やグリーンビルディングの建設、再生可能エネルギーの利用、廃棄物削減、循環型経済ソリューションの提供などが共通して取り組まれています 7
  • 顧客への提供価値: DHLのGoGreen Plus 88、DB Schenkerの顧客向けサステナビリティコンサルティング 90、CEVA LogisticsのCEVA FORPLANET 94、郵船ロジスティクスのグリーンソリューション 59など、サステナビリティを顧客に提供するサービスとして位置づける動きが広がっています。これは、企業が自身の排出量を削減するだけでなく、顧客のサプライチェーン全体の排出量削減を支援することで、新たなビジネスチャンスを創出していることを示しています。
  • ESG評価の重視: EcoVadisなどの第三者評価機関による認証取得(CEVA Logisticsのゴールドメダル 94、郵船ロジスティクスのブロンズメダル 119)は、企業のサステナビリティパフォーマンスの透明性と信頼性を高め、競争上の優位性をもたらしています。

サステナビリティは、単なるコスト要因ではなく、顧客獲得、ブランド価値向上、規制リスクの軽減、そして長期的な成長を支える投資として認識されています。

結論

世界の主要な国際フォワーダーは、グローバル経済の複雑化、技術の急速な進歩、そして環境意識の高まりという三つの主要な潮流の中で、ダイナミックな変革期を迎えています。本レポートで分析した各企業は、それぞれ異なる強みと戦略的アプローチを持ちながらも、これらの共通の課題と機会に対応しています。

競争環境の再編: DSVによるDB Schenkerの買収は、業界における規模の経済と市場統合の重要性を改めて浮き彫りにしました。このメガマージャーは、グローバルフォワーディング市場のトップティアにおける競争環境を根本的に再編し、他の主要プレーヤーに対しても、さらなる規模の追求や、より明確な専門分野の確立を促す可能性があります。M&Aは、単なる成長戦略を超え、特定の地域やサービス分野(例:eコマースフルフィルメント、リバースロジスティクス、ヘルスケアロジスティクス)での能力を迅速に獲得するための手段として活用されています。

デジタル化の深化と戦略的価値: ITシステムとデジタル技術は、もはやバックオフィス業務の効率化に留まらず、サプライチェーン全体の可視性、予測能力、およびレジリエンスを向上させるための戦略的基盤となっています。AI、ロボティクス、IoT、デジタルツインといった先端技術への投資は、企業が単に貨物を追跡するだけでなく、混乱を予測し、リアルタイムで最適な意思決定を行い、顧客に革新的なデータ駆動型サービスを提供することを可能にしています。データ統合の重要性も高まっており、シームレスな情報フローが物理的な貨物フローと同等に重要視されています。

サステナビリティの事業中核化: 環境、社会、ガバナンス(ESG)へのコミットメントは、単なる企業の社会的責任ではなく、顧客獲得、ブランド価値向上、そして規制リスク管理のための競争上の必須要件となっています。SBTi検証済みの排出量削減目標、SAFやEVへの投資、グリーン倉庫の建設、そして顧客向けの脱炭素ソリューションの提供は、企業が持続可能なロジスティクスを事業の中核に据えている証拠です。Scope 3排出量の削減は依然として大きな課題ですが、企業はサプライヤーとの協働や革新的なソリューションを通じてこれに取り組んでいます。

アセットモデルの多様性と進化: アセットライトモデルの柔軟性と資本効率、およびアセット保有モデルのサービス品質とコントロールという二つのアプローチは、それぞれ異なる利点を提供します。DSV-DB Schenkerの統合は、アセットライトな企業がアセットヘビーな能力を獲得し、柔軟性とコントロールのバランスを追求するハイブリッドモデルへの移行を示唆しています。

日本のフォワーダーの立ち位置: 日本の主要フォワーダーは、強固な国内基盤と、中国をはじめとするアジア地域での深いネットワーク、そして高品質なサービス提供に強みを持っています。彼らはデジタル化とサステナビリティへの投資も進めていますが、欧米の巨大フォワーダーに見られるような大規模なM&Aによる市場再編の動きとは異なる戦略的アプローチをとっています。今後、グローバル市場での競争力を維持・強化するためには、特定の産業や地域における専門性をさらに深めるか、あるいはグローバルな規模拡大に向けた新たな戦略的提携やM&Aを検討するかが、重要な経営課題となるでしょう。

総じて、世界の国際フォワーディング業界は、規模の拡大、技術の進化、そして環境への配慮という三つの軸で進化を続けています。これらの要素を戦略的に統合し、顧客の複雑なニーズに応えることができる企業が、将来の市場をリードしていくことになります。


企業名DHL Global ForwardingDB Schenker日本通運 (Nippon Express)Kuehne+NagelDSV
企業概要本社: ドイツ<br>設立年: 1815年(前身含)<br>従業員数: 約39万5,000人(グループ全体)本社: ドイツ<br>設立年: 1872年<br>従業員数: 約7万6,000人本社: 日本<br>設立年: 1937年<br>従業員数: 約7万3,000人(グループ全体)本社: スイス<br>設立年: 1890年<br>従業員数: 約8万1,000人本社: デンマーク<br>設立年: 1976年<br>従業員数: 約7万5,000人
主なサービス航空・海上・陸上輸送、複合一貫輸送、通関、ロジスティクスサービス(自動車、テクノロジー、ライフサイエンス、エネルギーなど)航空・海上・陸上輸送、サプライチェーン管理、契約ロジスティクス、展示会・特殊輸送航空・海上・陸上輸送、重量物輸送、鉄道輸送、国内・海外引越、ロジスティクスサービス航空・海上輸送に強み、契約ロジスティクス、陸上輸送、特殊ロジスティクス(医薬品など)航空・海上・陸上輸送、契約ロジスティクス、プロジェクト輸送
グローバルネットワーク220以上の国と地域、拠点数1,300以上130以上の国と地域、拠点数1,850以上50以上の国と地域、拠点数473(海外)100以上の国と地域、拠点数1,300以上90以上の国と地域、拠点数800以上
自社保有<br>ファシリティ倉庫面積は非公開だが、DHL Supply Chainとして約1,200万平方メートル以上を保有。<br>自動化倉庫、ロボティクス技術などを導入。倉庫面積は非公開。<br>医薬品輸送向けのGDP認証倉庫、危険物倉庫など特殊設備を保有。国内外の倉庫総面積: 約600万平方メートル。<br>医薬品専用倉庫、保税倉庫などを保有。倉庫面積は非公開。<br>AIとロボティクスを活用した自動化倉庫に注力。倉庫総面積: 約600万平方メートル以上。<br>低酸素倉庫、GDP認証倉庫、危険物倉庫などを保有。
強みと弱み強み: グローバルな知名度と広範なネットワーク、ITシステムによる可視化。<br>弱み: グループ事業の多角化による複雑性。強み: 欧州における強固な陸上輸送ネットワーク。<br>弱み: 貨物取扱量が他社に比べてやや劣る。強み: 日本国内の強固なネットワーク、重量物輸送や美術品輸送の専門性。<br>弱み: グローバル展開における欧米企業との競争。強み: 海上・航空貨物輸送のリーディングカンパニー。<br>弱み: 価格競争の激しい陸上輸送での課題。強み: 積極的なM&A戦略による迅速な規模拡大。<br>弱み: 買収企業の統合プロセスにかかる時間とコスト。
財務面<br>(2023年度)売上高: €229億(約3.8兆円)<br>営業利益(EBIT): €13億(約2,150億円)売上高: €191億(約3.1兆円)<br>営業利益(EBIT): €11億(約1,800億円)売上高: 2兆2,810億円<br>営業利益: 1,061億円売上高: CHF238億(約4.1兆円)<br>営業利益(EBIT): CHF19億(約3,300億円)売上高: DKK1,508億(約3.3兆円)<br>営業利益(EBIT): DKK177億(約3,900億円)
近年の戦略的動向デジタルフォワーディングプラットフォーム「myDHLi」の強化。<br>サステナビリティ戦略「GoGreen」でCO2排出量削減を推進。デジタル化、データ駆動型文化の構築を推進。<br>ESGに注力し、再生可能エネルギーへの投資を拡大。M&Aによる海外事業強化(Cargo-Partner買収)。<br>サステナビリティ戦略「NX-GREEN」でCO2削減を推進。デジタル化戦略「Future Ready」を推進。<br>ESGへの取り組みを強化し、サプライチェーンの透明性を向上。積極的にM&Aを実施(UTi Worldwide, Panalpinaなど)。<br>DB Schenker買収交渉を進行中。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

英語、登山、旅行、考えること

コメント

コメントする

目次