【短編小説】『風をつかむ手』


桜井真帆は、自分がオランダ駐在になると聞かされた日のことを、今でも鮮明に覚えている。
「……私が、ですか?」
口に出した声が少し上ずった。
人事部長は笑って、「そう、あなたが」と頷いた。

入社以来、ずっと東京で働いた。何度か部署を異動したものの、どこにいてもパッとはしなかった。大した成果もあげることはできていない。しかし、本社に異動になったときから視点がかわったのだ。こんな仕事があるのかと、そして、こんな考え方をしていいのかと。コーポレートの仕事がしたい。そして、この会社でコーポレートの仕事をしていくからには、海外でキャリアを積み重ねなければ、生き残れない。

だから、海外駐在を希望した。

まさか自分が駐在員になるとは思わなかった。
周囲の視線も感じた。
――特別扱いだ、と。
陰でそんなふうに思っている人もいるのだろう。

けれど、真帆は心の奥でこう呟いていた。
チャンスはつかみ取った者勝ちだ。
チャンスの女神には前髪がない。迷っていたら通り過ぎてしまう。
そしてそれを、つかんだのは――私だ。


真帆は大学で英文学を専攻した。
英語を話して仕事をする、海外で働く――その憧れは、学生時代からずっと変わらない。
しかし、現実の日本企業で、英語を使って働く女性の多くは、貿易事務や営業事務に就くのが常だった。
もちろん、それが悪いわけではない。けれど、彼女には満足できなかった。

英語を勉強し、使いたいと願う人は山ほどいた。
英語を話せる人だって珍しくない。
だが、英語を“武器”に日本企業でキャリアを積むには、それ以上のもの――確固たる信頼と、学歴や実績の裏付けが必要だという現実も、年齢を重ねるほどに痛感した。

会社が金をかけて海外に送り出す人間は、“どこの馬の骨ともわからない人間”ではない。
真帆は、そういう枠の外にいた自分を知っていた。
それでも――何とか食い込んだ。
掴み取ったのだ、このポジションを。


赴任先はアムステルダム。
役職は「コーポレート戦略アナリスト」。
現地オフィスで、欧州の最新情勢を調査・分析し、日本本社へレポートを送るのが主な任務だ。

最初の数か月は戸惑いの連続だった。
慣れない文化、異なる仕事の進め方。
だが、彼女は休日には現地コミュニティに参加し、友人を作った。
運河沿いのランニングコースを走り、野菜中心の食事を心がけ、体調管理も怠らない。
“心と体のバランスを崩さないこと”――それが長くここで生きるための鍵だと知っていた。

この地に、少なくとも五年はいることになるだろう。
五年後、自分はどうなっているだろうか。
真帆は運河の橋の上で立ち止まり、春の風を頬に受けながら、心の中で答えた。

――きっと、もっと遠くへ行っている。


目次

『赴任初年度の壁』

アムステルダムでの生活が始まって半年。
表向き、桜井真帆は順調に見えた。
週末には友人と美術館やマーケットを巡り、オフィスでは欧州各国の経済レポートを本社に提出する日々。

だが、その裏で、心の奥にはいつも小さなざらつきが残っていた。


ある日のオンライン会議で、ドイツ拠点のマネージャーが言った言葉だ。
本社からの指示をそのまま伝えたつもりの真帆に、彼は笑いもせずこう続けた。

「日本は、いつも細かすぎる。こちらの判断を信用してほしい。」

画面越しに交わされる沈黙。
彼の言葉は正論だった。
けれど、真帆は日本側の意図も知っている。
“細かさ”は本社の品質保証であり、リスク管理だ。

文化の違いが、会議のたびに真帆を挟み込む。
通訳ではない。
橋渡し役だ。
だが、その橋は時に足場が脆くなる。


赴任直後は「新しい風」として歓迎された。
だが半年を過ぎると、周囲の視線は変わる。
「で、何を成し遂げたの?」
暗にそう問われているのを感じる。

日本から来た駐在員は、単なる労働力ではない。
コストがかかる存在だ。
派遣するだけの価値を示さなければならない。

真帆は分析レポートの精度を上げ、提案型の報告書を出し始めた。
「欧州の再生エネルギー政策がサプライチェーンに与える影響」という特集は、本社役員会で取り上げられ、プロジェクト化が決まった。
その瞬間、彼女はやっと、“ここにいる意味”を実感した。


順調な時もあれば、夜中に突然の孤独感に襲われることもある。
家族も、長年の友人もいない街。
電話越しの声は温かいが、手の届く距離ではない。

だから真帆は、自分の“軸”を保つ習慣を作った。
朝のランニング、週末の自炊、月に一度の小旅行。
小さなルーティンが、心を守る盾になった。


初年度の終わり、真帆は自分の机の上に置かれた新しいプロジェクトの依頼書を見つめた。
それはオランダだけでなく、フランス・ベルギーを含む欧州3か国横断の戦略立案。

――あの時つかんだ女神の前髪は、まだ彼女の手の中にあった。


『現地でのリーダーシップ』

二年目の春、桜井真帆の肩書きは「欧州戦略プロジェクト・リード」になっていた。
赴任初年度、分析レポートで評価を勝ち取った彼女は、新たに欧州三か国横断の戦略立案プロジェクトを任されたのだ。

リーダーとして、現地メンバーの信頼を得るのは簡単ではなかった。
指示待ちを嫌うオランダ人、ディスカッションを重視するフランス人、慎重で数字にこだわるベルギー人。
会議はしばしば予定時間を超え、意見がまとまらないこともある。
それでも真帆は、各国の価値観を尊重しながら最終的な結論を導く“まとめ役”になった。
リーダーシップとは声の大きさではなく、信頼の厚みだと実感する。


駐在員としての生活は、責任の重さと同時に、現実的なメリットもあった。
赴任手当、住宅補助、渡航費、現地での生活支援金――数字にすれば、明らかに日本にいた頃よりも手取りは増えている。
さらに本社評価も高まり、帰任後のポジションや給与にも好影響が期待できた。

けれど、こうした“駐在の経済的価値”は、女性同士の会話ではほとんど話題にならない。
同僚の男性たちはランチの席で、
「いやぁ、駐在はやっぱり割がいいよな」
「ローンも一気に返せたし、子どもの教育費も助かる」
と、ごく自然に話している。

真帆はふと気づく。
――同じ立場にいても、女性はこういう情報を得にくい。
知らなければ、選択肢にもできないのだ。


真帆はその日から、自分の給与明細を丁寧に見直し、資産計画を立て始めた。
駐在で得られる追加収入は、ただの“余剰”ではない。
将来の選択肢を増やすための“資本”だ。
現地の銀行口座、投資信託、退職後の生活費――数字と計画は、日々の仕事と同じくらい彼女を支える柱になった。


プロジェクトが最終段階に入った頃、現地メンバーの一人が真帆に言った。
「あなたがいたから、このチームはまとまったんだと思う。」
その言葉に、真帆は少しだけ胸を張った。

かつては“特別扱い”と見られた自分。
けれど今は、誰もが彼女のポジションに納得している。
成果と信頼を積み重ねた先に立つ“現地リーダー”として。

そして心の奥で呟く。
――この経験と資産、どちらも私の未来を支える。

では、真帆が**「おとなしくシャイな性格」**から、欧州の多国籍チームでリーダーシップを発揮するに至るまでの過程を、小説的に描きます。
衝突・異文化理解・“合わせる”だけではない決断の瞬間を盛り込みます。


『静かなリーダーシップ』

赴任から1年が過ぎた頃、桜井真帆は自分が避けて通れない役割を担っていることを悟っていた。
――リーダー。
誰も彼女にそう呼びかけはしなかったが、チームの視線は自然と彼女に集まっていた。


欧州3か国合同プロジェクトの初期会議。
ドイツ人エンジニアが、フランス人のマーケティング責任者を真っ向から批判した。
「その戦略は数字が裏付けていない!」
「数字ばかりでは市場は動かない!」

会議室の空気は一気に硬直した。
日本であれば沈黙でやり過ごすところだが、ここでは黙っていれば同意とみなされる。
真帆の心臓は早鐘を打つ。
私は外交的な人間じゃない。人前で強く出るなんて、性に合わない。
けれど、この場を放置すればプロジェクトは瓦解する。

真帆は一呼吸置き、穏やかな声で口を開いた。
「両方の視点が必要です。数字が示す安全性と、市場の感覚。今日はまず、それぞれの根拠をもう少し掘り下げましょう。」

沈黙の後、二人は渋々うなずいた。


真帆の強みは、雄弁ではなく傾聴だった。
積極的に話しかけるのは苦手でも、相手の言葉を最後まで聞くことはできる。
会議の合間、コーヒーを手にした同僚の不満を聞き、要点をノートに書き留める。
メールやチャットの短いやり取りでも、必ず相手の背景を確認する。

やがて人々は、真帆にだけ本音を打ち明けるようになった。
「あなたなら分かってくれると思って。」
それは、静かに、しかし確実に築かれた信頼だった。


プロジェクト中盤、ベルギー側が納期の延長を申し出た。
現場には正当な理由があったが、日本本社は強く反対。
双方の板挟みの中で、真帆は眠れぬ夜を過ごした。

そして翌朝、会議室でこう言った。
「延長は受け入れます。ただし、追加のコストとリスクを明確にし、本社に提示します。」

誰かを完全に勝たせるのではなく、双方が納得できる着地点を提示する。
その瞬間、彼女は“調整役”から“決断する人”へと変わった。


真帆は、声を張り上げたことは一度もない。
威圧的な指示も、華やかなスピーチもない。
代わりに彼女が持っていたのは、相手の立場に寄り添いながらも、必要な時にしっかりと線を引く勇気だった。

そのスタイルは、欧州チームにとって新鮮だった。
やがて彼らは彼女を**“the calm leader”**と呼ぶようになった。
静かなリーダー。
強さは声の大きさではなく、揺らがない姿勢にあることを、真帆は知った。


英語を武器にできる日

会議の冒頭、フランス人のマーケティング責任者が言った。
「このレポート、よくできている。英語も読みやすいし、論点がはっきりしている。」

その場で真帆は微笑むだけだったが、胸の奥では小さな炎が灯っていた。
――あの頃の私が聞いたら、きっと信じられないだろう。

大学で英文学を専攻して以来、英語はずっと身近にあった。
でも、留学経験もなく、海外勤務もない。
自分の英語力を誇れる場面はそう多くなかった。

社会人になってからも、出勤前の30分、昼休みの15分、帰宅後の1時間。
ニュースを音読し、海外記事を訳し、英語で日記を書いた。
週末はカフェでTOEICや英検の問題集に向かい、リスニングアプリを耳に入れたまま買い物をした。
旅行にも行かず、夜遅くまで残業した後でも机に向かった。

淡々と、毎日、積み重ねる。
派手さはないが、やめなかった。
あきらめなかった。

その積み重ねが、今、異国の会議室で自分を支えている。


現地評価の転機

欧州3か国横断のプロジェクトは、終盤で大きな局面を迎えていた。
新しい政策の影響で、計画の一部を変更せざるを得なくなったのだ。
期限は迫り、各国から意見が錯綜する。

真帆は全ての会議記録とメールを読み込み、論点を整理した。
各国の意見を矛盾なく統合し、図とシナリオで提案書を作り上げた。
それは、ドイツ人が重視する数字の正確さ、フランス人が求める市場感覚、ベルギー人が必要とする法的安定性――全てを織り込んだものだった。

最終会議で、その提案が全会一致で承認された瞬間、静かな拍手が起きた。
ベルギー人の法務責任者が立ち上がり、真帆に手を差し出した。
「Without you, this wouldn’t have worked.(あなたがいなければ、うまくいかなかった)」

フランス人責任者も笑った。
「I didn’t think a quiet person could lead such a diverse team. But you did.(こんなに静かな人が、多様なチームをまとめられるとは思わなかった。でもあなたはやった)」


静かな勝利

真帆はただ一礼し、「Thank you」とだけ答えた。
長く積み重ねた英語の努力、文化の違いを超えた調整、そして必要な時に下した決断。
その全てが、今この瞬間につながっていた。

欧州という多様な舞台で、“静かなリーダー”は確かな評価を手に入れた。
それは拍手の音よりも、ずっと深く、彼女の心に響いた。

では、真帆の欧州生活における旅行の思い出と、オランダならではの習慣を物語の中に自然に組み込みます。
日本ではなかなか行けない場所や距離感、そして生活の中で発見した文化的な違いを描きます。


『オランダの日々と、週末の旅』

ヨーロッパの距離感

赴任して間もなく、真帆は休暇の取りやすさと移動の便利さに驚いた。
アムステルダムからなら、1〜2時間のフライトで別の国へ行ける。

最初の週末旅行はベルギー・ブルージュ
運河に沿って並ぶ中世の街並みは、まるで絵本の世界。
カフェで飲んだホットチョコレートは、濃厚で、冬の空気にぴったりだった。

春にはパリへ。
新幹線のような高速鉄道タリスで3時間ちょっと。
セーヌ川沿いを歩きながら、大学時代に夢見たヨーロッパの街を、ようやく自分の足で歩いていることを実感した。

夏はスペイン・バルセロナ
サグラダ・ファミリアの圧倒的な存在感、海辺の市場で食べたパエリア。
仕事で溜まった緊張が、地中海の陽光でゆっくり解けていった。

秋にはチェコ・プラハへ。
赤い屋根と石畳の街、夕暮れのカレル橋から見たオレンジ色の光景は、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。


オランダならではの習慣と発見

日常生活の中にも、日本との違いは数え切れないほどあった。

  • 自転車文化
    ほとんどの同僚は自転車で通勤する。雨でも風でも構わない。
    真帆も中古のオランダ製自転車を手に入れ、毎朝運河沿いを走るのが日課になった。
  • カフェのコーヒーは小さくて濃い
    日本のカフェラテの感覚で注文すると、エスプレッソ並みに濃厚なコーヒーが出てくる。
    最初は驚いたが、今では朝の一杯が欠かせない。
  • 定時退社は当たり前
    18時を過ぎてもオフィスに残っている人はほぼいない。
    「プライベートの時間を守ることが仕事の効率を上げる」という考え方が根付いている。
  • 「直接的な会話」
    回りくどい表現は好まれず、率直に意見を伝える文化。
    最初は冷たく感じたが、慣れると裏表のない安心感がある。
  • 誕生日は自分がケーキを持ってくる
    誕生日の人が同僚にケーキを配るのがオランダ流。
    真帆も初めての誕生日に、近所のベーカリーでタルトを買っていったら、とても喜ばれた。

学んだこと

旅を通して真帆が感じたのは、「国境が近い」ことが生み出す柔軟さだった。
文化も価値観も隣国ごとにまるで違う。
それが日常的に出会える距離にあるという事実は、日本では考えられない。

そして日々の暮らしの中では、**「人生は仕事だけではない」**という感覚が自然に育っていった。
時間を大切にする文化、率直に話す文化、自分の誕生日を自分で祝うユーモア。
どれもが、静かでシャイな彼女の心を少しずつ広げていった。


『静かなリーダー、終盤へ』

視野が広がるということ

欧州生活も3年目。
週末の小旅行、異文化の日常、そして多国籍な同僚との交流は、真帆の中の“物差し”を静かに書き換えていた。

以前の彼女なら、「こうあるべき」という基準を日本式の感覚だけに頼っていた。
けれど今は、
「これはこの国では普通」
「この方法ならあの国の人も受け入れる」
という、複数の基準を同時に持てるようになった。

それは単なる異文化理解ではなく、自分の中に複数の価値観を置く柔軟さだった。


最後の難題

そんなある日、欧州本社で緊急会議が開かれた。
欧州連合の新しい規制が発表され、プロジェクトの方向性を大きく修正する必要が出てきたのだ。

ドイツ側は「完全遵守すべき」と主張し、フランス側は「市場を失うリスクが高い」と反発する。
会議室はまたも対立の空気に包まれた。

真帆は発言を求められ、深く息を吸った。
「この規制を守ることは前提です。でも、フランス市場を守る方法も探せます。」
そう言って、事前に準備していた2つのシナリオをスクリーンに映し出した。

  • シナリオA:規制に完全準拠しつつ、販売チャネルを多様化する案
  • シナリオB:特定市場向けに規制適用除外を申請し、ブランド価値を保持する案

各国の代表は静かに資料を見つめ、次第に意見が交わされ始めた。
対立は議論へ、議論は合意へと変わっていく。


現地で得た評価

会議後、オランダ人の上司が真帆に近づいた。
「君は、みんなの言葉を“翻訳”しているようだね。言語だけじゃなく、文化も。」

それは、真帆にとって何よりの褒め言葉だった。
旅行や日常の中で得た小さな気づき、相手の当たり前を知ろうとする習慣――それらが、この場面で生きたのだ。


静かなリーダーの結論

オフィスの窓から、運河沿いの桜並木が見えた。
春の風に揺れる花びらを眺めながら、真帆はふと考える。

――私は、もう以前の私ではない。
静かで、おとなしくて、前に出るのが苦手だった私。
でも今は、人をまとめる力を持っている。

異国で過ごした日々が、私を変えたのだ。
そして、この変化はきっと、ここを離れた後もずっと続いていく。


『静かなリーダー、岐路に立つ』

突然の打診

春の終わり、東京本社から一本の電話が入った。
「そろそろ帰任について話し合いたい。」
その一言に、真帆の胸はざわついた。

赴任は5年間の予定。残り2年を切った今、この打診は想定内だった。
それでも、胸の奥に芽生えたのは安堵ではなく、迷いだった。


帰任の道

帰国すれば、経験を生かせるポジションが用意されているだろう。
欧州での実績、リーダーシップの評価、異文化調整のスキル――それらは日本の職場でも大きな価値になる。
家族や旧友と同じタイムゾーンで過ごす日々、慣れた食べ物、言葉の壁のない生活。

だが、その一方で、胸の奥が静かに抗っていた。
「ここでまだやれることがある」と。


残留の道

現地では、真帆がリードする新しいプロジェクトが始まったばかりだった。
オランダ人の上司は、会議後にこう言った。
「もし残りたいなら、契約延長も考えてほしい。君がこのチームにいる意味は大きい。」

運河沿いを歩きながら、真帆は自問する。
――ここに残ることは、キャリアの次のステップなのか、それとも安住なのか。


夜の決断

その夜、真帆はこれまでのノートを開いた。
赴任直後の戸惑い、初めての衝突、評価を得た瞬間、旅行で訪れた街の風景、学んだ習慣、異文化での小さな発見。
ページをめくるごとに、過去の自分と今の自分が違う人間であることを確信した。

「私は、もっと遠くへ行ける。」

その言葉は、帰国か残留かの二択を超えていた。
重要なのは、次の舞台を自分で選ぶこと。
駐在は、与えられたものではなく、自分でつかみ取ったものだった。


静かなリーダーの未来

翌週、真帆は人事部にメールを送った。
「帰任の前に、新規プロジェクト完了まで残留したい。」
それは、延長を希望する意思表示だった。

運河に映る初夏の光がきらめく。
その先にどんな未来が待っているのか、まだ分からない。
けれど真帆は知っていた。
静かな声でも、はっきりと未来を選ぶことはできる――そう、この欧州の空の下で学んだから。









よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

英語、登山、旅行、考えること

コメント

コメントする

目次